百年日記帖

ukiyo girlというバンドの人の非商業的な日々 目指せ百年

ミスタージュークス

 音楽を主体的に聞くようになった中学、高校時代から、現在に至るまで、ずっと追い続けているバンドやアーティストというのは、少なくなってしまった。僕の趣味趣向が変わったというのもあるし、バンドの音楽性が変わったというパターンもある。そんな中で、今でもずっと聴き続けているバンドってなんだろうって考えたとき、一つ思い浮かぶのがBombay Bicycle Clubというバンドだ。
 ボンベイは既に解散してしまったが、とても影響を受けたバンドの一つだ。このバンドを知ったのは高校生のとき、地元のイオンにあるTSUTAYAのレンタルCDコーナーで、当時、知らないバンドのアルバムをむやみやたらに借りていて、その中の一枚にあったのがファーストアルバムの「I Had the Blues But I Shook Them Loose」だった。公園のような場所で、胴上げのように高く空中に浮いている男を眺める群衆、という変なジャケットに惹かれて借りたのだが、アルバム自体も印象的なジャケットと同じで、曲の構成も、ドラムのパターンも、ベースラインも、ギターのリフやメロディーも全部聞いたことないような、異質な感じがあった。「イギリスの四人組バンド」という情報だけは知っていたものの、それまで好んで聴いていたアークティック・モンキーズや、ブロック・パーティーとはまったく違うような感じがあって、そこがとても好きだった。その時は、特に好きだったその2バンドも聞けなくなるくらい、ボンベイのファーストだけずっと聞いていた。
 二枚目に出したアコースティックのアルバムもとても良くて、三枚目で「How Can You Swallow So Much Sleep」や「Lights Out, Words Gone」を聞いたときはびっくりした。ファーストアルバムで受けた衝撃を更に塗り替えられたというか、三枚目もまた、聞いたことないような音で、そしてそれらが全部僕の求めていたもののような気がして、ドキドキした。「Shuffle」のあのピアノのサンプリングフレーズもそうだし、The 1975や、日本で言えばミツメを筆頭に、インディーの中でよく使われるようになった、ミュートの効いたギターのフレーズも、ボンベイはまったく違う使い方をしていて、圧倒的な個性があった。ルーシー・ローズの歌声もよかったし、フォークっぽいサイケデリックさがあるアートワークも、曲名の雰囲気まで全部好きだった。
 ラストアルバムとなる「So Long, See You Tomorrow」はそこから更に発展して、サンプリングやラップのような譜割りなど、ヒップホップ的な気持ちよさ、そしてそこにインド音楽や、民族的なリズム、様々な要素が加わっていて、未来も過去も、西洋も東洋も全部ごちゃ混ぜにしたような感じがあった。でも、そこにはちゃんとジャック・ステッドマンが存在していて、ボンベイの音になっていて、そこにとても憧れた。
 いろんな音楽を聞いたり、映画を見たり、本を読んだりしているうちに、段々とこれは好き、これはあまり好きじゃないというラインのようなものができるというか、どういったものに惹かれるのか、自分で徐々にわかってくるようになると思う。僕はその好みの幅がとくに偏っているというか狭くて、すごく個人的なイメージだったり、感覚で惹かれることが多い。特に音楽で言えば、北欧の童話のような、カチャカチャしたドリーミーなフォークやエレクトロニカ、ジャズ、ソウル的な孤独なロマンチックさのある音楽だったり、スカスカしているようなインディーロックが好きなのだが、それらをすべて一緒くたにしようとすると難しいというか、どこかで接続してはいるものの、別の方向を向いているそれらに、なぜ同じように惹かれるのか、説明することはできない。また、それらに影響を受けて、表現しようとすると、どうしても一曲ずつ、あるいはフォーマットを変えてやるしかない。僕はヒップホップ的な要素を入れた曲もやりたいが、一方で子どもに聞かせても問題ないような、童謡みたいなかわいいフォークもやりたい。だけど、それらを一緒にやることはできないから、一方ではバンドでいろんなことを試して、弾き語りでは宅録でしかできないような多重録音のフォークをやるしかない。でも、ジャック・ステッドマンはそれらをすべて同居させたまま、変な違和を持たせず、完成度の高いものとして、作ることに成功している。そして、なにより僕が惹かれるのは、僕が音楽に求めている気持ちよさのようなものが、彼の作る曲にすべてあるということだ。
 ちょうど今日出た、ジャック・ステッドマンのソロ、Mr Jukesを聞いて、改めてそのことを思わされた。ギターロックが大好きだった高校生のときは、ファーストアルバムがとてもしっくりきたし、新しさもあった。そこから、ポストロック、エレクトロニカ、フォークなんかを聞くようになって、二枚目、三枚目の音楽性がまた自然に入ってきたし、King Kruleやサウスロンドンの音楽を聞いて、サンプリングやヒップホップっぽい要素がわかるようになってから、ラストアルバムが出た。常に僕の音楽体験とともに進化し、提示してくれていたのがBombay Bicycle Clubというバンドだった。きっと、僕が影響を受けすぎて寄っていってるだけなのだろうが、ジャック・ステッドマンの音楽には、僕がそのとき求めているものが全部用意されていて、聴くたびに驚いた。
 音楽だけじゃなくて、ジャック・ステッドマンの持つ雰囲気や、見た目にも、とても惹かれる。アレックス・ターナーもケリー・オケレケも大好きだし、とても憧れるが、スター感があるというか、カリスマ性がとてもあって、海外の大物バンドのフロントマンという感じがする。ジャックは、以前インタビューで「お酒を呑みに行って大騒ぎするよりは、仲のいい友達と静かにしている方が好き」って言っていて、そこが自分と似ていて信じられると思ったし、日本の田舎に住んでいる僕にも、どこか距離感が近いような感じがあった。それに、ジャックのおでこの広さも、いつもシンプルなシャツを着ている感じも、同じように感じるところがあって、とても好きだ。
 Mr Jukesは、以前からよく通っていると言っていた、日本のジャズ喫茶で生まれたプロジェクトらしい。ジャック自身、いよいよ頭を丸刈りにして、まるで寺のお坊さんのような見た目になった。アルバムはサンプリングが主体で、ボンベイのようなバンドサウンドはほとんどないし、音楽性もジャズやソウル、ヒップホップに寄っているが、とても強くジャック・ステッドマンが現れていて、嬉しかったし、まさに今、自分が好きで聴いていたり、表現しようと思っていることがそこにあった。初めてボンベイを聞いたときと同じ感慨があった。以前、ガリレオガリレイのメンバーと対談したとき、ジャックが「ソングライティングっていうのは自分の中のソウル(魂)であって、アレンジの部分は洋服みたいなもんなんじゃないかな」と言っていた。きっと、アレンジが違っても彼の個性を感じるのは、そういった強い意志があってこそなんだろうと思ったし、自分もそれを持っていたいと思った。

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