百年日記帖

ukiyo girlというバンドの人の非商業的な日々 目指せ百年

ペパロニ・ピザ

 月に一度くらいの頻度で、コストコというスーパーに行く。コストコというのは、アメリカ生まれの大型スーパーのことで、売られているものも、店内の雰囲気も、そのままアメリカにいるかのような、特徴的なお店だ。うちの家庭、特に僕と妹はアメリカに対するあこがれがあまりにも強いので、毎回そこで、缶のコカ・コーラを一ケースと、大味なアメリカっぽいペパロニ・ピザを一ホール買う。それを、純和風な一軒家である我が家で口にしては、”アメリカ”のことを思うのである。僕のここ数年の急激な体重増加の一番大きな要因はここにある。僕の肥満はアメリカに対するあこがれがもたらしたものなのだ。僕のあこがれは、そのまま僕の血肉となり、贅肉となった。

 コストコのペパロニ・ピザを食べるとき、僕は毎回、アメリカの郊外に住む一人の少年のことを思う。彼の名前はジェイデン。やや小太りの体型に、年中半袖にハーフパンツで、ピザとコーラが大好き。僕はピザを口に運びながら、そっと目をつぶる。俺はジェイデン。アメリカの太った子供。ピザが大好き。そう自分に思い込ませる。徐々に、脳裏にアメリカの郊外の寂しい風景が浮かんでくる。それはまるで、ハーモニー・コリンや、ヴィンセント・ギャロの映画のような、あの感じ。音楽で言えばリアル・エステートのような、あの風景。崩壊しかけたサバービア。僕は遠い異国の地に思いを馳せ、空想上の子供と一体となる。

 口いっぱいに、チープなトマトソースの強い酸味と、チーズの香りが広がる。俺はいま”アメリカ”を食っている。”アメリカ”を喰らっているんだ。完全にジェイデンとなりきった僕は、ソーダ・ファウンテンから注いだペプシコーラと、マウンテン・デューを両手に持ち、交互に飲む。時には、両方のストローを口に入れて、豪快に吸い上げては「こうやって飲むとうま~い」とつぶやく。ママに「ソーダは一つまでって言ったでしょ!」と怒られる。僕は「ごめんなさ~い......」とつぶやき、またピザを口に運ぶ。うまい。最高、いやファッキン・オーサムである。

 コストコのペパロ二・ピザを口にすると、毎回、僕はジェイデンとなり、彼の生活風景が脳裏に立ち上がる。学校へ通っている僕は、太っていることをいつも仲間から馬鹿にされる。しかし、ジェイデンはそのことをまっく気に留めない。なにより食べることが大好きで、ピザとコーラこそが本当の友達だったのだ。

 ある日、いつものように友達と一緒に学校から下校していると、街に凶暴なモンスターが現れ、襲いかかってくる。逃げ惑う子供たち。ジェイデンは両手にいつものようにペプシ・コーラとマウンテン・デューを持ちながら「待ってよ~!」と友達を追いかける。ジェイデンは足が遅い上に、ドジだった。段差に躓き、転ぶジェイデン。フタが外れ、コンクリートに流れ出すペプシ・コーラとマウンテン・デュー。「ああ!僕のソーダが!」ジェイデンが叫ぶ。瞬間、ジェイデンはモンスターに捕まってしまう。「ああ!ジェイデンが!」仲間の一人がそう叫ぶ。「ジェイデンなんてかまってる暇ないわ!早く逃げましょう!」もう一人がそう叫ぶ。ジェイデンはモンスターに飲み込まれる。外の騒ぎを聞いて、様子を見にドアを開けたママがその光景を目撃する。「ああ!私のジェイデンが!」泣き崩れるママ。猟銃を持って飛び出すパパ。しかし、そこにはもうモンスターの姿はなかった。

 「優しくて、親思いな、ピザとソーダが大好きな子でした......」執り行われる形だけの葬式、黒服に身を包んだママのスピーチ。そこに突然、憎きあのモンスターが現れるーー。阿鼻叫喚の人々、逃げ惑う子供たち。ママが言う。「ジェイデン......?」ママの見つめる先はモンスターの首筋、そこにはジェイデンにつけさせていたお守り代わりの金属製のタグがぶら下がっていた......。「ジェイデン!ジェイデンよ!あの子に違いないわ!」駆け寄るママ。「ジェイデン!生きていたのね、あなた!」モンスターとなり元の姿と変わり果てたジェイデンは、ママを見つめる。「マ...マ......?」「そうよ!ママよ!ジェイデン、ジェイデンね!」その瞬間、モンスターはママを飲み込む。

 あまりにもペパロニ・ピザを食べ過ぎた僕は、ジェイデンに対する空想が膨らみすぎて、B級パニック映画のような展開になってしまった。今日も僕は、ジェイデンのことを思いながらまた一枚、ペパロニ・ピザを口に運ぶ。やがて空想上のジェイデンは大人となり、大学を卒業する。二十二歳になったジェイデンは、故郷を離れ、ニューヨークに住んでいた。ジェイデンは大人となった今、昔の面影が見えないくらいスリムでハンサムになっていた。幼い頃、よく口にしていたペパロニ・ピザも今はもうあまり口にしていない。それよりは、ニューヨークで流行っている寿司、日本食を口にするのが好きだった。今日もジェイデンは仕事終わりに和食レストランへ通い、寿司を注文する。ジェイデンはツナ・ロールを口にしながら、ふと遠い異国の地、日本を思う。彼の名はコウヘイ。東京の郊外に住む二十二歳の青年。寿司とグリーン・ティーが大好き。ジェイデンは空想上の日本人、コウヘイになって寿司を食べる。そうすると、ジェイデンの脳裏には日本の郊外の寂しい風景が浮かび、まるで自分が日本人かのように、寿司を楽しむことができたのだ。やがてその空想はどんどんと膨らんでいき、空想上のコウヘイはジェイデンという人物を空想しながらピザを食べ始めるーー。ニューヨークに住む青年、ジェイデンと西多摩に住む青年コウヘイの空想が交差し始める。ジェイデンとコウヘイ。何が起きているんだと、戸惑う二人。君の名は......?

 ふと目を開けると、そこはアメリカの郊外ではなく、東京の西多摩だった。僕は、少し安心したような顔で、ペプシ・コーラとマウンテン・デュー、二つのソーダを同時にストローから吸い上げて、こうつぶやくのだった。

 「こうやって飲むとうま~い」

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