百年日記帖

ukiyo girlというバンドの人の非商業的な日々 目指せ百年

全裸の季節

 去年の暮れ辺り、深夜にたまたまテレビで流れていた、とあるドキュメンタリー番組を見た。それは、現役のトップAV女優たちで結成されたアイドルグループを特集したもので、その内の三人のメンバーの、AV女優としての葛藤や苦悩、そして成長を追ったものだった。彼女達に共通していたのは、元々進学校に通っていたり、看護師という経歴を持っていたりと、いわゆる”エリート”と言われるような道から挫折した経験と、”アイドル”を夢見ていた、ということ、そして、アダルトビデオという業界に進んだことによって、家族との軋轢を抱えている、ということだった。番組では、各々の人生を振り返りながら、実際の親御さんとの衝突のシーンや、普段見ることのない、彼女達の生活に密着していて、それぞれが抱える苦悩に、胸が痛くなった。気づけば、かじりついて番組を見ていた。

 誤解を恐れずに言うと、AV女優になる人や、風俗業界で働く人の気持ちというか、心理が僕にはわからなかったし、興味があった。わからない、というのは決して突き放すわけではなく、閉じた僕の頭では理解が追いついていない、ということだ。社会的倫理感、価値観の中で、ある種タブーのような扱いをされながら、”必要なもの”として存在している、アダルト業界の存在がそもそも不思議だったし、その中で自らその道へ進んでいく、というのは、どうしてなんだろう、と思った。

 番組を見ていて、一際印象に残ったのが、一人目の女優さんだった。彼女は僕より二つも年下で、進学校へ通っていたものの、挫折し上京、メイドカフェで働きながら、スカウトされたことで業界へ入り、活動しているという。築五十年の古びたアパートで、AV女優になりながらアイドルになれたことを「夢のよう」と語っているその姿に、また胸が痛くなった。そんな彼女が、AV女優になった理由を、「人生で唯一褒められたのがセックスだったから」と語っていた。その一言が、僕の中でとても衝撃的だった。

 僕が曲を作ったり、こうやって毒にも薬にもならないような文章を書いているのも、褒められたいからだ。「あの曲いいね」とか、「あの文章面白かった」とか、そんなことを言ってもらうために、やっている。他にも理由はいろいろあるし、一概には言えないが、一番大きいのはそこだ。過去に褒められた、という経験があるから、今でも続けている。だから、彼女の発言が、まるで自分のことのように理解できた。先に挙げていたような疑問も消えた。もちろん、人によって様々な理由があると思うし、そもそも本人の意思関係なく、契約があるのかもしれない。テレビという性質上、すべてが真実というわけではないが、番組を見ていて、一番印象的だったのは、その彼女の発言だった。

 そもそも、”表現”をするということ自体が恥ずかしいことだ。僕の好きな太宰治は「小説を書くっていうのは、日本橋の真ん中で裸で寝るようなもんだ」と言っている。僕のやっていることも、全裸で街を疾走するようなことだ。「あなたの裸、いびつだけど私は好き」とか、「見た目はよくないけど走っているスタイルが好き」と言ってくれる人がいるから、今でも走っている(例えの話です)。それに比べたら、アダルトビデオなんてなにも恥ずかしくない、なんてありふれたことを言いたいわけではなく、ただ、一人の個人的な感覚として、彼女のやっていることが自分のやっていることと同じように思えたのだ。それは、彼女が元々不登校だったり、引っ込み思案だという、自分と似たような経歴も後押しした。

 ”承認”の問題は、現代人の病理であると、斎藤環や、山竹伸二など、様々な学者が述べている。自分自身、彼らが言うような”承認の失敗”を経験しているからこそ、承認の問題を考えるようになった。僕が表現したいのは”承認の足場”を失った人たちのことだ。僕は百万人が共感するようなラブソングよりも、握手会でアイドルから認知をもらうために名札を下げたり、女性へクソリプを送ってしまうおじさんや、野良猫に餌をあげてしまうおばさんや、出口を見つけることができずに苦しんでいる少女や、好きな人との距離をうまくはかれない青年に「なんかよくわかんないけど良いかも」と思ってもらえるような曲が書きたい。

 数日間で二度もAVの話をしてしまい、とんだスケベ野郎だと思われているかもしれない。普段下ネタも言わないし、あまりそういうイメージがないとよく言われるが「いや、そういうつもりはなくてAVは音楽や映画と同じように、一つの成熟したコンテンツとして......」みたいなダサいスノッブじみたことを弁明するつもりはない。そもそも詩を書いて歌を作って録音して全世界にバラまいたり、こんな文章を書いたり、「日本橋の真ん中で全裸で寝」てるようなもんなんだから、元々がスケベなのだ。

 ”全裸”で人前に立つのは、かっこいいことだ。番組を見てから僕は、ひっそりと浅田結梨さんを応援している。